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EP Booster を作ろう 20240904版

  • オリジナル:XCITE EP Booster
  • エフェクターのタイプ: ブースター
  • マニア度: 定番
  • 基板のサイズ: 5cm x 4cm / ケース: 1590Bタイプ
  • 提供法: 基板頒布

音を太くするという目的でよく使われる EP Booster です。掛けっぱなしにする方もいるとか。ギターからの信号を入力インピーダンスの高い JFET で受けて歪の少ないトランジスタバッファで出力しています。

この基板では三本足(TO-92)の 2N5457 の入手が難しいことから足の配列の異なる代替素子を使えるようにしています。自分だけの EP Booster を楽しんでみてはいかがでしょうか。

JFET の動作点

オリジナルの 2N5457 が手に入ればいいですが、なかなか難しいので代わりのものを使うケースがあると思います。FET が変わると動作点やらバイアスをどうするかが問題となってきます。同じ型番のFETでも素子のばらつきがありますが、オリジナルにトリマーが入ってないということは、一つひとつ素子の特性を測るほどシビアにならなくてもOKと取りましょう。

それでは 2N5457 以外の型番ではどうやって決めましょうか。ここでは、(1)IsQ≒Idss/2 の方法や (2)Fetzer Valve のマネをしてやってみます。あくまで一案です。あてずっぽうというわけにもいかないので。では、この2つはどうやってるかといえば……

(1) Vgs-Id 特性から Vgs=|Vp|/3.4 となる点を動作点として VgsQ と IsQ を求めます。で、Rs=VgsQ/IsQ となります。

(2) Rs=0.83*|Vp|/Idss で求めます。

EP Booster は 2N5457 に Rs=4.7kΩ を使っています。2N5457 の仕様書から Vp=-1.2 の Vgs-Id 特性の図を持ってきました。Rs=4.7kΩ の負荷線が赤い線です。同様に先の2つの負荷線も引いておきました。ずいぶん離れてますね。この線から Vp=-1.2のときは VgsQ=-0.75V と分かります。ということで、動作点は Vgs=(0.75/1.2)*|Vp|=0.625*|Vp| となる点としましょうか。仕様書には Vp=-3.5 と Vp=-5.8 の図もあって、それらからも読み取ると係数は 0.63〜0.72 の範囲でした。やっぱりこの真ん中にします。

(3) EP Booster は VgsQ=0.68*|Vp| となる点を動作点として Rs を求めることにします。実際の素子に対して特性図から読み取っても絶対一致しないのでトリマーで動作点を探しました。Rd は EP Booster にならって Rs の約 2 倍にする(Rd1)とゲインつまみを絞ったときにオリジナルと近い音量になるはずです。できるだけ歪ませないような Rd(Rd2)を選ぶときは、Vd を 5.6V ぐらいにする抵抗値を選びます。増幅後 6.8Vpp まで歪まないはずです。音も大きくなります。

Rs (R5) Rd1(R4) Rd2 (R4)
2N5457 4.7k 8.2k
2SK303-V3 1.3k 2.2k 5.8k
2SK208-Y 2.3k 3.9k 9.0k

※ オリジナルの抵抗値のままで JFET を代えても音は出ます。

Rs に並列に繋がる可変抵抗も適当な値に変えるのがいいかもしれませんが、選択肢が少ないことと、Rs が 4.7k より小さいことを考えるとそのままでいいと思います。

エミッタフォロアでバッファー

EP Booster の出力段は NPN トランジスタのエミッタフォロアによるバッファーです。出回っている回路図を見ると分かりますが、Vcc/2 にバイアスしたのをエミッタフォロアを通して出力しています。Tube Screamer など多くのエフェクターでもこのバッファーが使われています。EP Booster で気になるのはバイアスをかけているところに 1MΩ(R8)の抵抗を使っているところです。他は500kΩ程度が多い気がします。これがあまり大きいとバイアス電圧に影響があります。何がまずいって望まないクリッピングが発生する可能性が上がります。ここに僅かな電流でも流れれば電圧降下がおきます。1μA でも 1V が発生します。計算してみましょう。

電圧降下=1M*Ib

Vb=4.5V-1M*Ib

Vc=10k*(Ib+Ic)

Ib=3.8/((β+1)/100+1)*10-6

∴ 電圧降下≒3.8/(β/100+1)

となります。βはhFEです。この値はトランジスタごとに異なります。2SC1815 では70〜700で、だいたいでランク別けされています。β=100 のときは1.9V、β=200 のときは 1.3V、β=400 のときは 0.76V の電圧降下があることになります。また、抵抗値を半分にすると電圧降下は半分とは言わないけど小さくなります。

ということで

(1) hFE の大きいトランジスタを使う。

(2) 1MΩ→500kΩ程度にする。

(3) そもそも 10kΩ 2つで 4.5V を作っているのを抵抗を変えてもうちょっと高い電圧にする。

という部品選びもありえます。

部品表

部品番号 備考
R1 1M 茶黒緑
R2 33k 橙橙橙
R3 1M 茶黒緑
R4 8.2k 灰赤赤 Rd
R5 4.7k 黄紫赤 Rs
R6 1k 茶黒赤
R7 15k 茶緑橙
R8 1M 茶黒緑 エミッタフォロアのバイアス抵抗
R9 10k 茶黒橙
R10 47k 黄紫橙
R11 100 茶黒茶
R12 10k 茶黒橙 電源分圧抵抗
R13 10k 茶黒橙 電源分圧抵抗
R14 ※1 33k 橙橙橙 パイロットランプLED用
C1 47n 473 フィルム
C2 10u 電解
C3 10u 電解
C4 100u 電解
C5 3.3n 332 フィルム or セラミック
C6 10u 電解
C7 47u 電解
C8 10u 電解
C9 4.7u 電解
D1 1N4148 回路保護用
D2 ※2 LED パイロットランプ
RV1 10k Cカーブ
SW1 ※3 2Pトグルスイッチ 1回路1接点 パネル取付用 or 3P 1回路2 接点ON-ON +3db ゲイン
SW2 ※3 2Pトグルスイッチ 1回路1接点 パネル取付用 or 3P 1回路2 接点ON-ON 高域強調
Q1 2N5457
Q2 2SC1815-BL
3PDTフットスイッチ
6.3mm ジャック 入出力ジャック各1個
2.1mm DCジャック +9V 電源

※1 R14 はLEDの電流制限抵抗です。LEDはそれぞれ明るさが異なります。抵抗値を変えると流れる電流を調整でき好みの明るさにすることができます。抵抗値を大きくすると暗くなります。パイロットランプLEDを使わない場合は省略できます。

※2 LEDはパイロットランプです。ケースで仕上げる場合はケースに取り付けて基板のLED端子から導線でつなぎます。ケースではなく基板上のD2に直接取り付けることもできます。そもそも無くても動作します。

※3 オリジナルは基板に取り付けられた DIP スイッチです。設定を変えないようであれば半田でショートさせてもOKです。ピンヘッダを取り付けてジャンパーピンでショートさせてスイッチにすることもできます。ケースに取り付けるのであれば基板の SW1 と SW2 から導線でスイッチにつなぎます。オリジナルはデフォルトで両方ともONです。

※ フィルムコンデンサはFaithful Link社製のサイズで作ってあります。他社のものを使うときはスペースが足りるか確認してください。

基板の端子

端子名
J5 電源端子 2.1mm DCジャック 9Vを給電します
J3 LED 端子 パイロットランプをケースに取り付けるときに使います
J1 IN フットスイッチ基板の IN につなぎます
J4 SW LED フットスイッチ基板の LED につなぎます
J6 SW GND フットスイッチ基板の GND につなぎます
J2 OUT フットスイッチ基板の OUT につなぎます
VR1 つまみ
SW1 +3db ゲインスイッチ
SW2 高域強調スイッチ

省略できる部品

仕上げ方によっては使わない部品があります。コストも抑えられます。それぞれの仕上げ方で設計して部品を揃えてください。

  • 常時ONとするのであればフットスイッチは要りません。
  • パイロットランプが要らなければR14とLEDは使いません。- スナップを使って電池を基板に直結するのであれば 2.1mm DC ジャックは要りません。
  • C9 はオリジナルにもありますが、LED にバッファを付ける意味はないと思うのでなくても大丈夫です。
  • SW1、SW2 は ※3 に書いたように工夫できます。
  • SW1 を OFF に固定する場合 C4 は不要です。
  • SW2 を ON に固定する場合は R7 を使わないでショートでもできます。

作り方

作例:JFET に 2SK303 を、スイッチはピンヘッダにしています。JFETはひっくり返して付けています。

準備

RV1 の 1 番と 2 番ピンを余った抵抗の足などで短絡させておきます。

JFET の取付場所

# 配列・形状 型番 取付場所
1 DSG TO-92 2N5457 A
2 GSD TO-92 303-V3 A ひっくり返して取り付けます。部品番号が書いてある顔を B の方に向けます。
3 SGD TO-92 2880-C、2881-C B
4 SDG SOT-23 208-Y B みごとに B にフィットします。

基板に部品を取り付ける

  • 抵抗など背の低いものから順番に取り付けていきます。

  • パイロットランプ用の LED はケースに取り付けと基板に取り付けを選べます。基板に取り付けるときは D2 に取り付けます。四角いランドの方がカソードです。ケースに取り付ける場合は J3 端子から導線で取り付けます。後ほど出てくる配線図を参考にしてください。

極性に注意

  • 電解コンデンサ(C2、C3、C4、C6、C7、C8、C9)は極性があります。コンデンサの白い帯(マイナス)側を基板の白塗り側に取り付けます。
  • ダイオードには極性があります。基板上の帯と部品の帯を一致させます。LED は四角いパッドのほうがカソードです。

ボリューム類の配線

可変抵抗の配線を下図のようにします。基板ははんだ付け面になってることにご注意ください。

配線の仕方は Guv'nor の「ボリューム類の配線」を参考にしてください。リード線の長さがちょうどよくなり、ケースに収めるときもスマートです。

スイッチ類の配線

下図のように配線します。可変抵抗は正面から見て左から 1 番ピンです。

POWER+- には電源を、LED にはパイロットランプ用の LED をつなぎます。 フットスイッチ用基板を使う場合は J1、J4、J6、J2 の端子を下のようにフットスイッチ基板の端子につなぎます。

フットスイッチ用の基板を使わない場合は次のようにしてください。

  • 入力6.3mmジャックの信号(チップ)を基板の J1(IN)につなぐ。GND は J6(GND)に。
  • 出力6.3mmジャックの信号(チップ)を基板の J2(OUT)につなぐ。GND は J6(GND)または入力ジャックの GND に。
  • J4(LED)は J6(GND)に。

演奏中フットスイッチで切り替えないのであればフットスイッチを省略できます。かなりのコストダウンになります。頑丈なケースも必要なくなるので100均のプラスチックケース(3個セットの保存パックなど)にするとさらにコストダウンできます。

仕上げる前に

仮組み・通電までして電源まわりのチェックをします。

  • J5 の電圧(約 9V)を計ります。→電源から J5 までに問題。
  • D1 のカソード、水色の○に約 8.4V が来てることを確認します。
  • R13 の LED 側、紫色の○に約 4.2V が来てることを確認します。
  • R8 電解コンデンサ側、赤い○に約 3.9V が来てることを確認します。これは R8 に 470kΩ を使った場合で、1MΩ の場合は約 3.6V になります。
  • JFET の各端子の電圧を確認する。取付場所の A と B どちらかにしか取り付けてないので空いてる方で確認すると楽です。繋がってます。G は 0V、Sは 1V 以下、D は 4.5V 〜 7.5V です。部品によりばらつきがあります。
  • フットスイッチを ON/OFF して LED が反応するか確認。

問題なければギターか発振器を入力につないで音出ししてみます。ケースに入れて完成です。

お買い物リスト

一応のお買い物リストです。部品の省略やパラメータの選択で変更してください。秋月電子さんの部品番号を書いています。部品調達の参考にしてください。廃番になることもあります。

部品番号 数量 秋月販売コード
R1, R3, R8 ※1 1M 3 125105
R2, R14 33k 2 125333
R4 ※2 8.2k 1 125822
R5 ※2 4.7k 1 125472
R6 1k 1 125102
R7 15k 1 125153
R9, R12, R13 10k 3 125103
R10 47k 1 118208
R11 100 1 125101
C1 47n 1 114596
C2, C3, C6, C8 10u 4 117897
C4 100u 1 117877
C5 3.3n 1 114590
C7 47u 1 117403
C9 4.7u 1 117895
D1 1N4148 1 100941
D2 LED 1 111577
RV1 10k (C) 1 114997
SW1, SW2 ※3 NJM4558 2 115736
Q1 ※ 4 2SK303-V3 1 109507
Q2 2SC1815-BL 1 113491
3PDT 1 117590
6.3mm ジャック 2 114813
2.1mm DCジャック 1 106569

※1 出力段のバッファにバイアスを与える抵抗です。470kΩ も選択できます。

※2 JFET のバイアスを変更する場合この抵抗が変更になります。

※3 ピンヘッダを使う場合 108593 とジャンパーピン 103687 があります。ショートさせる場合や取り付けない場合は不要です。

※4 2N5457 はもう廃番で秋月でも取り扱いがありません。代わりに 2SK303-V3 を載せています。この場合、位置 A にひっくり返して取り付けます。

頒布について

メルカリにて頒布予定です。「【PCB】 EP Booster を作ろう 20240904版」というタイトルで出品します。 フットスイッチ用の基板をご希望の場合は無料でご提供します。購入後に取引メッセージなどでお知らせください。